皆さんはこれまで、大きい声を出したいときどのようにしていましたか?
「話すとき、意識的に腹式呼吸をしてみる」
「腹式呼吸に意識を向けて過ごす」
このような声が聞こえてきそうですが・・・
実はこれだけでは、残念ながら声の方には変化が起きないのです。
それはなぜなのか?
では、何をどうしたら声は変わるのか?
その答えを、これから分かりやすく紐解いていきますね。
目次
腹式呼吸で声は変わる?
実は、ただ腹式呼吸をしているだけでは「声」は何の変化もしないのです。
はっきり言ってしまうと・・・
腹式呼吸ができる=大きい声が出る
ではないんですね。
呼吸をするときは腹式だけど、声を出すときの息はノータッチのまま、という状態なのです。
つまり、腹式で発声できていない、ということです。
心当たりはありませんか?
腹式呼吸での息を、ちゃんと声に反映させないと変化は起きないのです。
ではどうすればいいのでしょう?
まず基本として、「声」は息の流れに乗って前に出ていきます。
この声が出るときの「息の流れ」を促すことが必要になってくるのです。
例えばですが、初めてキャッチボールをする人がいるとします。
ボールなしで、投げる動きだけを練習してきれいなフォームになりました。
でも実際にボールを投げない限りは、スピード感や瞬発力といった感覚が分からないままですよね。
腹式呼吸をしているのは、フォームの練習に似ています。
肺の下部に息を入れる呼吸は慣れました。
でも実際に腹式で声を出していないので、声が息の流れに乗ってしっかり出ていく感覚が分からない、という状態だと言えます。
ここまでの話を聞いてガッカリしないでくださいね。
これは決して、今まで意識したことや努力が全く無駄だったということではありません!
さらにその先の実践に入りましょう、ということです。
それでは腹式でどう声を出していくのか、話を進めていきましょう。
腹式呼吸を使った声の出し方とは?
ところで、腹式で呼吸をしているとき「吐く息」はどんな感じでしょうか?
今、実際に呼吸をしてみてください!
・
・
・
感じ方は人それぞれなので、特に正解はありません^^;
ただ、今までは「吐く息」の方にはあまり意識を向けていなかったと思いませんか?
腹式呼吸をしていると言う人たちは、どちらかと言うと吸う息の方にはよく意識を向けておられます。
健康のために腹式呼吸をする、というだけのことなら全く問題のないことです。
しかし、ここでは大きい声、しっかりした声、今よりも良い声、などを求めていることが前提です。
そうなると、「吐く息」に注目する必要が出てくるのです。
先ほど、ただ腹式呼吸をしてみたときの「吐く息」を言葉で表現するならこんな感じでしょうか。
吐き始めから吐き終りに向かって、息が弱くなっていく、息が細くなっていく感じ。
実際に声を乗せるには、このような息では非常に不安定なんですね。
ですので、これから練習で求めたいことはこうなります。
・安定した息を吐くこと
・その息に声を乗せること
このことを、実際に出した声と体の感覚とが一致しながら練習できると、効果はより早く出るわけです。
ここで一度、腹式呼吸の流れを確認しておきましょう。
息を吸うときは、こうなります。
口、又は鼻から息を吸う
↓
肺の下部に空気を入れる
↓
肺に空気が入って膨らむ
↓
横隔膜が下に押される
↓
内臓も押される
↓
お腹周り(お腹・脇腹・背面)が広がる
横隔膜とは、肺と内臓の間にある筋肉の膜のことです。
この横隔膜が大きな役割を果たしていくことになります。
ちなみに、今までに「お腹に息を入れる」という表現を耳にしたことはありませんか?
これはきっと、
横隔膜が下に押される
↓
内臓も押される
を省略した表現なんだと思います。
ところで、ここで注目したいのは「お腹周り(お腹・脇腹・背面)が広がる」のところです。
感覚としては、お腹周りが広がる、膨らむ、動く、といった感じになりますよね。
このときに、左右の手の平を当てて、実際に動きを感じながら練習したいのです。
ただし、手の平を当てるのはお腹ではありません!
手の平を当てるのは、背面の腎臓のあたりです。
でもちょっと分かりにくいですかね^^;
よく小学生のときの整列で、先頭の人がするポーズがありましたよね?
両脇に手を添えて、腕がくの字になる、あのポーズです。
今、実際にそのポーズをしてみてください。
・
・
・
そして親指を軸にして、そのままクルッと手を後ろに回せば、ほどよい位置に手の平が当たりますよ。
この体勢も、腕はくの字になっていますね。
このように背面に手の平を当てると、腹式呼吸で息を吸ったときに、体の広がり(膨らみ、動き)を良く感じることができるのです。
一方で、息を吐くときはこうなりますね。
肺の下部から空気が送られる
↓
口、又は鼻から息が出る
↓
肺から空気が出ていくにつれ、下がった横隔膜が戻る
↓
下に押された内臓が元の位置に戻る
↓
膨らんだお腹が元に戻る(へこむ)
今まで、腹式呼吸で息を吐くときは「お腹をへこませる!」と意識していませんでしたか?
へこませると意識しなかったとしても、息を吐けば自然とお腹は元に戻るんですね。
ただ、これも健康のために腹式呼吸をする、という場合の話です。
腹式で声を出すには、息を吐いたときにお腹をへこませない、という方法になるのです。
そこで注目したいのは、「肺から空気が出ていくにつれ、下がった横隔膜が戻る」のところです。
腹式で発声するためには、ここを次のように変換します。
「肺から空気が出ていっても、下がった横隔膜を戻さない!」
そんなこと可能なの?と思いますかね^^;
人は会話をするとき、数秒ごとに息を吸っていますよね。
声を出しているその数秒ほどの時間を、横隔膜を下げたまま保つということです。
何十秒もするわけではないので大丈夫、できるのです。
それでは、息を吐くときの流れを全部書き換えてしまいましょう。
肺の下部から空気が送られる
↓
口、又は鼻から息が出る
↓
肺から空気が出ていっても、下がった横隔膜を戻さない!
↓
下に押された内臓も元の位置に戻らずそのまま!
↓
膨らんだお腹も元に戻らず(へこまず)そのまま!
先ほど、背面に手の平を当てて、息を吸うときに体の広がり(膨らみ、動き)を感じましたね。
息を吐くときは、背面の膨らみがへこまない、保ったまま、動かない、という状態を手の平で確認する、ということになります。
そして、これと同じ状態の体で「声」を出していきたいのです。
つまり、背面の広がり・膨らみを保ったまま(へこまないまま)、この状態で声を出す、ということです。
実際には、どうやってこの状態になれるのでしょう?
これから、具体的な練習の方法を説明していきますね。
腹式で声を出すトレーニング方法
これから説明するトレーニングの基本は、先ほどお伝えした通りです。
・背面に手の平を当てる
・息を吸ったら、膨らみを感じる
・息を吐く・声を出すときは、膨らみを保つ
念のため、手の平を当てるのにはちゃんと意味があります。
手からの伝達は、私たちが思う以上に脳がキャッチするんですね。
だから、ただ感覚的にやるよりも、ちゃんと手の平で体の動きを察知しながら行う方が間違いなく近道なのです。
また、なぜ手を当てるのが背面なのか?お腹や脇腹ではダメなのか?
という疑問を持つ人がいるかもしれません。
ですがこれにも意味があるのです。
お腹は柔らかく、手の平を当てても明確に判断がつかない上に、姿勢も反りやすくなってしまいます。
脇腹に手を当てるのでもいいですが、背面の方がダントツに広い面積を触れるので、体感が分かりやすいというメリットがあるんですね。
どうせやるなら、効率の良い方法を選びましょう、ということです^^
基本を押さえたところで、トレーニングは次の3つの方法になります。
・息を吐く→声を出す
・片足で行う
・スクワットの体勢で行う
まずはひとつ目から説明していきましょう。
息を吐く→声を出す
これは、息を吐く→声を出す→息を吐く→声を出す・・・・
と、交互に行っていく方法です。
まずしっかり息を吐き、横隔膜を下げた状態を体にリハーサルさせます。
そして、その直後に同じ体感で声を出す、というのが目的です。
リハーサル→本番→リハーサル→本番・・・
みたいなものです。
実際に息を吐くときは、子音Sを使います。
スーーーーッ と吐きましょう。
ただ、唇をとがらせて「ウ」の口になると、口周りに力みが出やすくなるんですね。
唇はリラックスで、厳密には子音だけで「Sーーーーーッ」と吐きたいです。
(リラックスした唇とは、普通に口を閉じたときの唇と思ってください。)
また、Sーーーーーーーッと吐くその息は、だんだん細くなったり、だんだん太くなったりしてはダメです!
どこを切り取っても金太郎あめのように、ムラのない同じエネルギー量の息でしっかりと吐いてくださいね。
このように息を吐くと、横隔膜は下がったまま維持しやすくなるのです。
声を出すときは、抑揚がつかない短めの言葉がいいです。
例として、ここでは「あめんぼ」を使ってみます。
(北原白秋の「五十音」という詩の一部です。)
あめんぼ あかいな アイウエオ
うきもに こえびも およいでる
かきのき くりのき カキクケコ
きつつき こつこつ かれけやき
ささげに すをかけ サシスセソ
そのうお あさせで さしました
・
・
・
具体的には、こんな感じで行います。
Sーーーーーーーーーーーーッ(心の中で「あめんぼあかいなアイウエオ」)
↓
あめんぼあかいなアイウエオ
↓
Sーーーーーーーーーーーーッ(心の中で「うきもにこえびもおよいでる」)
↓
うきもにこえびもおよいでる
↓
Sーーーーーーーーーーーーッ(心の中で「かきのきくりのきカキクケコ」)
↓
かきのきくりのきカキクケコ
・
・
・
という感じで行っていきます。
言葉は区切らずに、必ず滑らかに発音してください!
息を吐くときに、心の中で「あめんぼあかいなアイウエオ」と言ってほしいのはなぜか?
それは、実際に声を出すのと「同じ長さの息」を吐いて、声を出すのと「同じ時間」で横隔膜を下げたいからです。
Sーーッと息を吐いたら、パッと息継ぎし、間をあけずに「あめんぼ〜」を始めてください。
参考までに、吐く息を5秒くらい、言葉を5秒くらい、で行ってみるといいでしょう。
5秒くらいでやると、「Sーーッ あめんぼ〜〜〜さしました」までで1分程です。
しっかりと取り組めば、これだけでも体の熱量が上がってくる感じがあると思いますよ。
ところで、トレーニング中は背面に手の平を当てていますよね。
息を吐くときも、声を出すときも、どちらも背面の膨らみを維持できているか?を当てている手の平でしつこいくらいに確認しましょう。
実は、息を吐くときは維持できても、声を出すときはへこんでしまう(緩んでしまう)、ということはよく起こります。
人によっては、息を吐くときもすでに維持できていないかもしれません。
そんなとき、ちょっとしたコツがあります。
意識的に、背面を広げようとするのです!
手の平を背面で押し返す感じで、押し広げる感じで、どんどん膨らませる感じで・・・!
横隔膜を下げたままで!なんて意識をしようにも、感覚はよく分からないものですよね。
でも背面を押し広げる感じでやれば、結果として「横隔膜を下げたまま」が維持できちゃいます^^
片足で行う
「息を吐く→声を出す」のトレーニングを実践してみてどうだったでしょうか?
背中を押し広げるにも、思った以上に体の反応が鈍い…
やっぱりすぐに背面がへこんでしまう…
そんな人も中にはいるでしょう。
でも大丈夫ですよ。
「片足」で行うことで、自動的に、膨らんだ背面を維持することができてしまうのです!
人は片足になった時点で、グラグラしないようにバランスを保とうとしますよね?
そうすると、体の重心がビシッと頑張り出すのです。
その状態で、さらにしっかり息を吐く・しっかり声を出す、ということを体にさせるわけなので、背面も緩みようがないんですね。
どんなに体の反応が鈍い人でも、です。
「片足」で行えば、膨らんだ背面を維持する(=横隔膜を下げたまま)という状態を、誰でも、始めから体感することができるのです!
息を吐く→声を出すで説明したトレーニングを、そのまま「片足」で実践してみてください。
片足になるときは、前ではなく、後ろに足を上げるようにします。
後ろに上げるのは、上半身が前後に傾かないためですね。
ちなみに後ろに上げた足は、床にギリギリでも、しっかり上げていてもどちらでもOKです。
また、片足は適当なところで左右の足を替えて行ってください。
「片足」で、そして背面には手の平を当てていますね?
息を吐くときも、声を出すときも、背面がへこまずに維持できていることを、当てている手の平で確認できるはずです。
片足で出した声は、確実に普段より大きい声、しっかりした声、お腹から出したと感じられる声・・・となっていませんか?
ここでちょっと余談ですが、私はヴォイストレーナーをしており、このような質問をよく耳にします。
「バランスが悪くて体がグラグラしちゃいます」
「グラグラしたらダメですよね?」
実は多少のグラグラは、全然悪くないのです。
グラッとすると、バランスを取ろうとしてさらに重心が踏ん張り出すんですね。
そのお陰で、背面の膨らみを維持するための助けが増えるのです!
もちろん、立っていられない程にグラグラしたらそれは危ないので、片足を一旦床について、またバランスを取り直しましょう。
スクワットの体勢で行う
息を吐く→声を出すをスクワットの体勢で行うという方法です。
肩幅より足を開き、上半身が真っすぐのまま、スクワットの体勢になります。
このとき、膝が内股やがに股にならずに、膝が前に出る感じで上体を下げましょう。
これは実際にスクワットの上下運動をするのではありません。
上体を下げた体勢をキープしたまま「息を吐く→声を出す」を行うということです。
こちらも、体の重心が踏ん張るしかないという体勢なので、「片足」で行うときと同様の効果が期待できます。
この、「片足」と「スクワットの体勢」と、どちらの方が良い体感がくるかは人によって違うんですね。
もちろん、両方のやり方が効果抜群!という人もいます。
ご自身がやりやすい方、良い体感を得やすい方を行えば良いということです。
どちらを行うにしろ、最終的には普通の状態のときに結果を出したいわけですよね。
なので「息を吐く→声を出す」をトレーニングするのは、次のような順番がお勧めです。
「片足」又は「スクワットの体勢」で、背面に手の平を当てて行う
↓
両足で真っすぐ立ち、背面に手の平を当てて行う
↓
両足で真っすぐ立ち、手を横に下ろした状態で行う
両足になったときに体が緩む感じがきても焦らずに!
またすぐに「片足」や「スクワットの体勢」に立ち返って、ちゃんと背面に手の平を当て、良い状態を確認していけばいいのです。
トレーニングは繰り返し行うことで身になっていくのですから。
まとめ
これまでのことをまとめておきますね。
・「声」は息の流れに乗って前に出ていく。
・腹式呼吸に加えて、腹式で声を出す。
・腹式で声を出すとき、横隔膜を下げたまま!
・「片足」又は「スクワットの体勢」になれば、すぐに「横隔膜を下げたまま」を確認できる。
このトレーニングで効果を実感できますように、健闘を祈っています!
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